妄想独身日記

明日目が覚めて、この生活がすべて夢だったとしたら。 晩婚アラフォー。あのまま独身だったら、のifの物語。 ここに記す内容は、登場する地名・固有名詞などすべてを含め虚構です。

もしあの頃、結婚していたら

もしあの頃結婚していたら、なんて思わないことはない。

 

希望の部署に異動になり、仕事が新鮮で面白く、若さと美しさに自負があった20代前半の自分は、文字通り怖いものなしだった。

友達の紹介で出会ったNとは、向こうの一目惚れでお付き合いが始まった。

旧帝大卒の国家公務員、180センチの長身に整った顔立ちの彼は、とにかく私にベタ惚れだった。

料理が苦手でインスタントしか出したことはなかったが、それでも私が準備してくれたというだけで写真を撮って喜んでいたり、私が友人と旅行に行くからと1週間以上会えない時には、旅行前日の夜に「旅行にはこれを身につけて行ってくれたら嬉しい」とちょっとしたプレゼントを持ってきてくれた。

途中、彼の転勤で遠距離恋愛になった時期もあったが、律儀にも定期的に会いにきてくれた。

 

お付き合いも1年ほどが過ぎた頃、転勤先から札幌に戻る目処がつきそうということ、また、戻ることができたらその時は結婚を前提に一緒に暮らしてくれないか、と言われた。

当時、自分は結婚のけの字も頭になかったから、実質プロポーズのような言葉に固まってしまった。

と同時に、自分は彼のことを本当に好きではないのだという事にもまざまざと気付かされてしまった。

全く、心が動かなかったのだ。

 

そんな私の表情を彼は敏感に感じ取っていた。

「返事は今すぐでなくていいから」とその場の話は終わった。

 

お互いの中にわだかまりを残したまま、数ヶ月が過ぎた。

その会話になったきっかけが何だったかまでは覚えていない。でも、彼の寂しそうに笑った顔が今でも記憶に焼き付いて離れない。

私が、「心の底から好きになれないのが辛い」と伝えたのだと思う。

「いつも俺が好きになればなるほど、相手は離れていく。

君のことをこんなに好きってことは、やっぱりダメってことなのかな」

 

その後、お互いの仕事の繁忙期や体調不良が重なり、すれ違う生活がしばらく続いた後、お付き合いは終わりを迎えた。

 

彼のような婚活市場でいうところの高スペック男子を捕まえられるのは、20代だからこその特権だったのだろう。

それでも、愛されてもなお、それを選び取らなかった自分。

その選択が正しかったかどうか、答えが出るのはいつなのだろうか。

アラフィフ独身の姿に未来の自分を見る

昨日の取引先とのランチミーティングは、出だし好調で。

100%納得いくものでは到底なかったにせよ、いい関係は築けたと思うし、最初にしてはまぁまぁな手応えだったかな、と。

これで今後も食っていこうと思うなら、こんなものではないだろう。

未だ独身の自分へのプレッシャーは痛いほど感じている。

逃げ場がないってことも。

 

最近、職場のトイレで、昔前の部署で一緒だったEさんとよく会う。

今や総務部の課長となった彼女も、私の10個上の独身。

いつも華やかに着飾って華奢で、ピンヒールもよく似合う。

それでも、昔はさぞかし美しかったであろうその横顔も、少ない頻度で、哀愁というか板についてしまった孤独というのか、そんな空気を感じてしまう。

いくら美人で学歴やキャリアがあっても、独身子なしというだけでどうしてこうも違うと思ってしまうのだろう。

それも全て私の中のコンプレックスのせいなのか。

 

会社から帰って、こうして一人の時間を過ごすことに、もうすっかり慣れてしまった。

不思議と妙に満たされていて、独身を厭うのは会社や社会への体裁?

それとも、冷えきった孤独に浸かりすぎてしまったせいで、心まで無感覚になってしまったということなのだろうか。

孤独と闘う独身アラフォー

明日は、異動の内示と飲み会。

一番年上で独り身だと、飲み会が何より堪える。

後輩たちが気を遣って何にも触れないようにしてくれる感じは、今に始まったことではない。

今回もまた「言わないだけで相手がいそう」感を漂わせて、とにかく耐えるのだ。2時間を。

 

明日の内示は、今の部署に来てからおそらく最もお世話になったMさんの異動。

Mさんは少し年下の後輩で、共通の知り合いや趣味も多かったから、仕事の話のみならず日常の他愛ない話までよく盛り上がったものだ。

転勤先には家族を連れていくらしい。子煩悩な彼らしい選択だ。

仮に彼がまだ独身だったとして、パートナーに自分のようなタイプは決して選ばないだろう。

下手すれば平日は家族よりも長い時間を共にしたはずだけれど、彼はきっとすぐに家族と共に新しい土地に馴染んで、ここでの日々のことなどあっという間に忘れ去るのだろう。

 

週末は学生時代からの友人Sと赤レンガテラスのアフタヌーンティー

Sも婚活に苦労した仲間だったが、今や2児の母だ。二人目妊娠中に会ったときは、何も知らされてなくて結構ビックリしたものだ。

私は彼女をかなり親しい友人だと思っていたが、振り返ってみれば結婚式にも呼ばれておらず、そう思っていたのは自分だけだったのかと今でも少し根に持っていたりする。

 

20代の頃から、ずっと変わらない。

繰り返す季節を、自分はどうして同じ人と過ごすことができないのだろうかと。

「一昨年あそこに行ったときはああだった」みたいな話を、当たり前のようにできる相手が未だかつていたことがないようなものなのだから。

おひとり様、女性専用宿に泊まる

約3年ぶりにこの女性専用旅館に泊まる。

1泊4万も払って一人で泊まりに来る独身女は、側からどう見えるのだろう。

5〜6人の若い女子グループの視線が気になる。

隣で大声でくっちゃべる品のない女でさえ、その話の内容から夫がいるようだ。

暖炉の間で座っていたおひとり様のおばさん。

歳は自分より上そうだけど、赤いネイルに派手な身なりは、いかにも独身貴族という感じ。

自分もあと10年もすればあんな風になるのだろうか。

 

前回来た時は、結婚詐欺師との別れの直後だった。あの頃と何が変わっただろうか?

1泊4万を惜しげもなく出せる経済力だけが、今の自分を支えているものなのかもしれない。

 

今はまだ、見ようによっては若くもキレイでもある。

でも、そんな身なりをあと何年保つことができるだろう。

明らかに所帯持ちが当たり前な風貌の年齢になった頃、何もない左手薬指のままでどこまで堂々と振る舞って居られるだろうか。

 

結局夜中の3時過ぎまで、なんとなくつけていたTVの特番を見ていたものだから今朝は寝不足だ。

大して眠ってもいないのに、またしっかり夢を見ていたようだ。

 

どこか知らない旅館の宴会場のようなところで、誰かと向かい合って食事をしている風景。

自分から向かって右手は大きなガラス張りになっていて、夜だからあまりよく見えないが、外が湖であることは分かっていた。

アジア系の外国人スタッフがうやうやしく料理を運んでくる。

二人で飲めないお酒をチビチビやっていた気がする。

向かいにいるのが男性で、夢の中の自分と極めて親しい間柄だということは分かるのに、今回もどうしても顔が分からない。

最近は、こんな夢ばかり見ている。

マッチングアプリの結婚詐欺師

出会いはマッチングアプリだった。

彼とはメッセージのやり取りをし始めてすぐ意気投合し、まずは会ってみましょうということになった。

忘れもしない、年の瀬のことである。

 

札幌駅のスタバはかろうじて営業していて、私はソイラテを頼んだ。彼は普通のコーヒーを飲んでいたと思う。

業界は違えど仕事の内容に共通点があったり、同年代だったので懐かしい話に花が咲いたりした。

 

別れ際、単刀直入に「アリかナシか」と聞かれた。

私的には大アリだった。

決してイケメンではないが嫌いな顔ではなく、清潔感を感じる身なりに、話していて知性を感じた。

地元旭川の高校から早稲田に進学し、5大商社に入社。パリでしばらく働いたのち東京に戻ったものの、母方の祖父の体調が思わしくなく、将来的なことを考え北海道の大手家具メーカーに転職したという。

 

その後の展開は早かった。

年明けに改めて夜のレストランで食事し、正式に交際を申し込まれ、その場でokした。

翌週、翌々週と、ぐんぐん距離は近付いた。

話していて価値観も合えばノリもちょうどよく、一緒にいて本当に楽しかった。

彼は、私が欲しかったであろう言葉をたくさんくれた。

「こんなに合う人いるんだって、びっくりしてる」

「来年は二人で国際免許取って交代で運転して、アメリカ横断とかしようよ」

「そのうちマンションでも買って、子供も産まれてさ。そうやって平凡に暮らしていけたら、幸せだよね」

「あなた以外、もう考えられないよ」

 

今思えば、違和感に蓋をしていたのだ。

対外的な取引がある部署じゃないので一時的に切らしていると言っていつまでもくれなかった名刺。

ドライブデートしようと言いながらいつまでも出してくれない車。

いつもデートしている間チラチラとスマホを気にしていること。

極めつけは、一人暮らしの部屋に祖父の看病のため一時的に旭川の母が滞在しているから、といつまでも家にあげてくれなかったことだ。

「付き合って3ヶ月くらい経って、関係が安定したら連れてくればいいよって母親に言われてさ〜(笑)」

なんて、まさに今時の親が言いそうなことをサラッと言うものだから、すっかり信じ切ってしまったのだ。

 

違和感が確信に変わったのは、付き合って1ヶ月ほど経った頃だった。

実家に帰る機会があり、母親に、最近できた彼氏がいて、という話をし始めたところ、旭川にゆかりのある母が、彼の出身高校から早稲田への進学に疑問があると言い出したのだ。

偏差値的にありえないのでは?と。

 

それまで感じてきた違和感が、次から次へと頭をよぎった。

その場で彼に電話を掛けた。

「実はまだ話していないことがある」と彼は切り出した。

 

彼は、バツイチだった。

祖父のため、もう1軒部屋を借りているとも言っていた。

初対面の頃、結婚したことはないと言っていたのだが。

電話口の声がだんだんと遠のいて聞こえた。

いろいろと弁明していた気がするが、その時点でもう彼の言うことは何も信じられなくなっていた。

 

翌週、彼の現在の勤め先と聞いていた市内の一角を訪ねたが、勤め先の会社はおろか、関連会社すら存在しなかった。

更に出身高校の進路指導科に電話し、この頃に早稲田への進学者はいたかと問い合わせたところ、昔のことなので資料は残っていないが、もしそういった生徒がいれば有名な話になっているだろうが、これまで聞いたことはないとの回答だった(だいぶ訝しまれたが・・・・)

 

彼の全てが、嘘で埋め尽くされていた。

学歴も職歴も、もしかすると独身であるということも。

彼の話す言葉はいつも澱みなく、まさに息を吐くように嘘をつく人間が自分の身の回りに現れたということも、ものすごい衝撃だった。

自分は騙されないというある種絶対の自信があったのだが、こんなに簡単に騙されるとは。人間とは、いかに自分に不都合な事実から目を逸らすものなのか。

 

今では、彼は結婚詐欺師だったのだと思っているが、本当のところは謎のままだ。

もしかすると、愛に飢えていたことだけは本当で、偽りの自分で着飾って、ただ誰かに愛されたかった寂しい人間だったのかもしれないが。

 

騙されていたことが分かった今でも、彼を思い出しては、どこか切ない気持ちになるのである。

マッチングアプリ疲れ

アプリの41歳バツイチIさんと大通駅1番出口で待ち合わせをしている。

約束の時間ちょうどくらいに落ち合って、挨拶をする。

当たり障りのない会話をしながら、店までの道を歩く。

想像より若干背は低いけれど、服装や身なりの全体感は決して悪くない。

 

予約してくれたイタリアンは、数年前に女友達と行ったことがあった。

この街の規模はたかだか知れていて、せいぜい改装されたり、名前が変わったりするくらいなもので、30年以上暮らしていればもうだいたい知り尽くしてしまったようなものだ。

予定のない週末を埋めるため、と新たな気持ちで始めた札幌市内開拓。

市内のビジホステイに日帰り温泉、レストランやカフェ巡りもいい暇つぶしにはなったが、一体いつまでこれを続けていけるだろうか。

 

Iさんは一度結婚していたこともあり、コミュニケーション能力が高く、女性のエスコートもソツがない。大好きな海外旅行の話にもついてきてくれるし、仕事への理解もありそうだ。

だけどやっぱり、オジサン感は否めない。

自分の年齢を考えれば、仕方ないのは分かっているのに。

4つ歳下の元恋人の肌を思い出してしまう。

 

一応は楽しく食事を終えて、2軒目のコーヒーに誘ってくれたけれど、とにかく疲れてしまって「用事がある」と逃げてしまった。

もう少し一緒にいたいとは思えなかったのだった。

 

昨日の夢の運転席の人のことを思い出していた。

口数は少なかったけれど、そこに確かに感じた温かい空気感。

あの夢の彼は、いったい誰だったのだろうか?

もう枯れたと思いたい結婚願望

YouTubeを見ながら、珍しく寝落ちしてしまっていたようだ。

土曜の午後5時。

また何か夢を見ていたような気がする。

桜の花びらが舞い散るどこか田舎の坂道を車で下っている。

自分は助手席に乗っていた。

運転手の顔は見えないが、何か会話をぽつぽつと交わし、温かい空気が流れていた感覚だけが残っている。

 

もう賞味期限の迫ったレトルトのミートソースでパスタを食べる。特段美味しくもないが、不味くもない。

とりあえずお腹が満たされて、最低限の栄養が摂れれば、それでいい。

 

明日は昼からマッチングアプリの人とランチに行く。

お店は中心部から少し外れたイタリアンを予約してくれた。4つ歳上の41歳、バツイチ子なし。関西の大学を出た後、国内を数ヶ所転勤し、2年程前に札幌に来たらしい。前の奥さんとは30代前半に結婚したものの、転勤先の土地に馴染めなかった元奥さんから、もうついて行くことはできないと離婚を告げられたのだと言う。

 

今はもう、何がなんでも結婚・出産したいとは思っていない。

適当なところでここでの生活に区切りをつけ、アーリーリタイヤ。

誰も知らない土地で独り朽ちていくのも、きっとそう悪くない。