妄想独身日記

明日目が覚めて、この生活がすべて夢だったとしたら。 晩婚アラフォー。あのまま独身だったら、のifの物語。 ここに記す内容は、登場する地名・固有名詞などすべてを含め虚構です。

交わることのない縁

最も距離を保ちたかった同期との関係。

もう10年前、狭いアパートの一室で。

 

Yはイケメンなのに、昔から少し変わっていて、目立つ存在だった。

そしてなぜか私のことをひどく気に入り、時に小馬鹿にしては、時に口説いた。

いつしか二人だけでこっそり逢瀬を重ねるようになっていた。

入社以来、長い付き合いだ。数年おきに転勤もあるすれ違う会社生活の中で、ひととき、札幌でのわずかな季節を共にした。

 

端正な顔立ちに崩れない体型。女性のエスコートが上手でノリも合うYに惹かれていくのに時間はかからなかった。

お互い夢中になって唇を重ね合ったあの日。

その翌週の約束は「親戚の不幸」で延期になった。

 

その数ヶ月後、その後に付き合った彼女と別れたらしいYが、再び声を掛けてきた。

街から少し外れた居酒屋で軽く飲んだ帰り、地下鉄駅へと降りる階段で、別れ際に私の腕を掴み、切ない瞳で言う。

「いいから、おいで」

こちらは当時の恋人と順調だったから、前の腹いせに、今日こそバカにしてやろうと思って来たはずなのに、とんだ計算ちがいだ。

こんなに動揺するなんて。

 

今なお褪せることのない記憶。

私の異動により、Yは同じ部署の同僚となった。

久々の異動で不安がっていた私に、コロナ禍に小さな歓迎会を開いてくれた。

数年ぶりのY。あれから結婚して子供をもうけたという。

遠い遠い存在になった。でも、話した感じはあの頃と全く変わらない。

 

その後、出張先での夜。

「久しぶりに話して、自分のことをこんなに理解してくれる人は他にいない」

いつも自分に都合のいい時だけ勝手なことを言って、私の心を掻き乱す。

「どうしてあの頃付き合わなかったのか。自分は馬鹿だ」

今や妻子ある身でそんなことを言うのだから、こちらから願い下げだと言ってしまえばそれまでなのだけれど。

 

側からみれば、こちらは夫も子もない独身女。

せめて仕事くらいはという気持ちと、これまでの貯えとともに今すぐにでも逃げ出してしまいたい気持ちが、いつもないまぜになっている。